おもろなって

皆のあらばしりのことだけど、

男(甲)と青年(乙)の謀議に引き込まれようとしている僕=読者(丙)が、はたして甲乙と同様の「正犯の意識」をどれほどの深度で持ち得ているかを、甲と乙とによって試されていると、僕=読者(丙)は感じる。

はたして丙は、甲と乙との謀議を「おもろなってきた」という情動(99頁)を伴って聴いているか。

 

ただ、次の事実・問題点①~⑦を聴き飛ばすと、まったく「おもろなって」こないから、ここは念を入れて聞き取らねばならない(この部分を記した96~98頁は、太字で印字されてもよかった。マーカーが最初から引いてあってもよかった、予備校本みたいに)。

 

① 蔵書目録が2冊。うちの1冊(A)に、皆のあらばしり1点と記載されている。

 

② もう1冊のほう(B)には、皆のあらばしり2点と記載されている。

 

③ なぜ、AとBとの二つの目録が発生したのか、いまだ疑問。

 

④ B記載の皆のあらばしり2点(CとD)のうち、一方は「本物の写本」か。

 

⑤ もし「本物の写本」ならば、他方はなんなのか。「本物」を作成するための原稿(の写本)という可能性もある。が、これは無視してよいだろう。(ただ、東大への寄贈を免れた大江健三郎の原稿が、絶版となった本とセットになって市場に出回っているというような事態も考えられないわけではないが。)

 

⑥ もし「本物の写本」でないならば、なんなのか。「本物の写本」と思わせるために書かれた下書き原稿(α)とその清書版=浄書(β)。

 

⑦ ⑥が事実とするならば、その行為者は②のBが世に出ることを阻止したい(だからじっさい行為者の手許に保管されていた)。そして、世に出すべきβを作出した後は、αは破棄されるか、または行為者の手許で保存されるか、しているはずである。

 

ここまでの事実・推測をもとに、甲乙丙の謀議はいよいよ具体的に始まる。